寅さん記念館での見所は、撮影スタジオ「くるまや」。実際の撮影に使ったセットを大船撮影所から移設したと聞く。ここを見学しながら、頭の中で何人もの映画の登場人物をセットに重ねた。生き生きとした場面が脳裏に展開された。なにか温かく、でもさびしい気持ちに囚われた。セットの中には、台所もあり、それがすごくリアルだ。昭和を彷彿とさせる。もう一つの私の見所は「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です」コーナー。ここは昭和30年代の帝釈天の町並みを模型にしたものだ。原寸の町並みではないが、かなり大きく精巧で、私の幼少期の思い出がわき上がってくる。
今回、寅さんこと渥美清さんについて、調べてみた。寅さんはかなりわがままだけれど、明るく快活で、人情があり、義理堅い。紛れもない自然児である。たぶんだれもが、渥美清さんを、寅さんと同じキャラクターと受け止めてしまうが、実は渥美さんは、自分のプライバシーをあかさない、人付き合いをさける孤独な方であったらしい。 演じるとは何か。特に全48作、ギネスブックに認定された「男はつらいよ」。その寅さんは、日本人にとっての永遠の人物像である。その人物像を演ずることと、自らを生きることとの葛藤。それを耐え、そして、自らの陽気で快活な精神を隠蔽し、冷徹な目をして、客観的に快活さを演じていたのかもしれない。また終盤近くの作品では、肝臓癌を患い、相当の無理をしての撮影だった。その後、その癌は肺にも転移し、壮絶な撮影であったらしい。渥美さんにとっての一番の関心事は、撮影の完遂であった。大事なファンに対しての気配り、愛想を振り向けるなどの余力は全く残っていなかっただろう。
山本亭と寅さん記念館は、柴又公園(江戸川河川敷)すぐそばにあり、そこから階段で少し上に上ることで、すぐにその全景が眺められる。この河川敷は毎回映画に登場する場所である。寅さん記念館から上に上がったその場所から、左方向に「矢切の渡し」がある。私の立った場所からは、その様子は見えない。そこは今でも安い料金で運航されているよう。対岸は千葉県松戸市である。
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