南部鉄器(鋳鉄)の中華鍋

 中国には「鋳鉄の中華鍋」は、ないと思っていました。ところがあるのです。それもかなりポピュラーなようです。中国人の方が、中華鍋を軽やかに振り回す姿を、年中テレビで見ているので、そう思いこんでいたようです。
 抜粋させていただいた文は、それと共に鉄器の特性がよく表現されているので、ぜひここにご紹介したいと思った次第です。


左 写真の中華鍋は、鋳鉄製ですが、
文中のものとは、違います。岩鋳 南部鉄器のものです。



北京大捜査網より
                 平松洋子著 平松洋子の台所 ブックマン社より

すでにまな板の上には、材料がすっかり切り揃えてある。コンロの上には黒光りする3本足つき鋳物製の北京鍋が、どおんとひとつ。それは対戦を受ける王者の風格を漂わせており、まさに今、北京の主婦の実力を受けて立とうとしていた。本日の訪問先は朝日公園近くの張家の台所です。
「今日のごはんは焼なす、じゃがいもの黒醋炒め、クキチシャの茎の炒めもの、いんげんの炒めもの、野菜の揚げだんご、それから・・・・・・・・・・・」
 えっ、そんなにたくさん!?思わずふり向くと、張(ジャン)さんはおっとり静かにうなずくだけである。
 いよいよコンロに火が入った。
 なすを炒めて調味料を加え、さっと混ぜ、皿に取り分ける。ざっと水で洗い、クキチシャを炒める。その鍋を洗わずそのまま油を足して、今度はいんげんを炒め・・・・・・・・鍋に休む間も与えず怒濤の勢いで事態はずんずん進む。しんがりは鍋にまたしても油をたっぷり注いで、野菜の揚げだんご。ほぉーっとため息が出た。頭のなかでの料理の順番はすべて計算ずみなのだ。
 食卓で、再び絶句した。
どの料理も歯ごたえも味わいも、すべてがまったく違う。簡素な炒めものなのに、ひとつひとつのおいしさがしゃきんと屹立している。
 いやはや、なんという腕前なのだろう。
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使い始めて二十年。注※油がしみこんでしみこんで、鍋肌はつるつるに輝いていた。
「もう手放せません。料理はなんでもこれなの。使えば使うほど、鍋から味が出る気がするのです。」
 おいしいものをつくるひとからこぼれ出る言葉は、なんとおいしそうなのだろう。コークスと鉄からつくられた、このあたりならばどこにでも売っている昔ながらの重い重い北京鍋。その鉄肌に二十年ぶんの台所の歴史が積み重なり、そのひとの味が鍋からしみ出る------北京の味の核心がまさに今、わたしの目の前にあった。
                    略
 (今度は栄さんのお宅を訪問)
 はたして、あの鉄の3本足の北京鍋がそこにもあった。台所で栄さんは、あの黒々と光る油のしみた鋳鉄物のおんなじ北京鍋で、皮つき豚肉の醤油煮をつくり始めるのだった。
「この鍋でなくちゃあ、じっくり火が通りません。重くて不便だけど、ステンレスやアルミと較べれば、おいしさは比較にならない。炒めるときもゆっくり煮るときも、これでなくては」
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注※油がしみこんで
油が染み込んだ状態とは、あくまでも鍋が清潔に保たれている状態に対してのことを指します。焦げ付き、汚れのこびりつき、そこに油が馴染んだ状態で真っ黒くなった鍋を見かけます。これでは、熱が焦げ付き、汚れに反応してしまい、すぐに煙が出て、正しく鍋を使えません。さらに悪循環の焦げ付き、ひっつきを連鎖的におこします。油の馴染んだ状態とは、清潔で尚かつ、鍋そのものに油が馴染んだ状態を指します。
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